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INTERVIEW

文武両道にこだわるサッカークラブが「教科書の内容を教えない塾」で教えていることとは?

東京都荒川区に、「文武両道」にこだわるサッカークラブを運営するNPO法人があります。
その法人の名は、NPO法人スポーツカントリーアンビスタ(以下、アンビスタ)。

2016年に設立されたまだ2年目のNPO法人の代表を務めるのが、元々大学で教鞭をとっていた石尾潤さんです。
前回の記事はこちらからご覧ください▼
目の前に困っている人がいるのに、見て見ぬふりはできなかった。先生を辞め、NPO法人を立ち上げた男の挑戦。

 

アンビスタでは、男女サッカーのほかに、ヨガ、チアダンスに加え、『Academia Ambista(アカデミア アンビスタ)』という子どもたちの「文武両道」を支援する、塾のようなコミュニティも運営しています。
そんな『Academia Ambista』では、教科書の内容は教えません。
では何を教え、伝えるためのコミュニティなのか。実態に迫ります。

 

− 文武両道を掲げる塾のようなコミュニティ『Academia Ambista』を女子向けに始めたのはなぜでしょうか?

文武両道を掲げているのは、自分が勉強もサッカーも両方したからこそ、社会人になって勝負できる部分が多くあると感じ、それを子どもたちにも伝えたいと思ったからです。
今のところ対象を女子に絞っているのは、「女の子がサッカーに燃える意味」を大人が共に考えることが重要だと思っているからです。

男子は、いい意味で華々しいプロサッカー選手の存在を簡単に知ることができるので、憧れの存在を見つけやすいですし、それをきっかけに努力することができると思います。しかし、女子サッカー界では、ワールドカップで初優勝を手にしたメンバーでも、日中はアルバイトをし、月収20万円程度で働きながらナイターや土日練習に行く…という生活をメディアが美談として伝えることがしばしばありました。

決して何かを批判したい訳ではありませんが、そのような日本の女子プロの世界を、憧れとワクワクを持って子どもたちが盲目的に目指せるかというと少し難しい部分があります。
サッカーという世界で生きていくその現実を子どもたちに伝えること、その世界を目指すのか、サッカーに別の意味付けをするのかということを共に考えることが地域女子サッカーの指導者としての務めだと感じたことが自分の原点にあります。

それでも、私自身は彼女たちがより豊かに、幸せ人生を生きていくために、今ここでサッカーに情熱を燃やすことに絶対に意味があると思っています。ただそれは、早い段階で大人が翻訳してあげないと、子どもにはわからないですし、自分も中学生のときにはわからなかった。

女の子が何らかの目的を持って、サッカーをやりながら勉強もし、彼女たちが素晴らしい女性になっていく橋渡しをしてあげたいなと思い、週5回のサッカークラブに加え、週1回のアカデミアを2017年5月に始めました。

 

− 親御さんによっては、勉強とスポーツ、どちらを優先させるか悩む方もいると思うのですが、文武両道を成り立たせる秘訣は何かありますか?

「適切な目標設定」と「絶えないモチベーション・マネジメント」の2点です。

ワクワクする、届きそうで届かない適切な目標設定と、結果が出るまでモチベーションをマネジメントする力をベースに、私がファーストキャリアで大学生に伝えていた様々なソーシャルスキルを身に付けるワークに取り組んでいます。その根本で、アカデミアで大きなテーマとして子ども達たちに対して伝えているのは、「今の自分を好きと言える自分でいてほしい」ということです。

適切な目標を適切な期間で設定して努力をすることで、成功を通じた喜び、失敗の悔しさ、挫折、仲間との絆や切磋琢磨する楽しさ、様々な感情の揺れ動きを経験し、彼女たちの人生をよりカラフルに、彩りあるものにしてくれると信じています。そのサイクルを回す手段として、中学生の彼女たちの目の前にあるのが勉強とサッカーであり、それをツールとして活用できればと思っています。

その先の人生でも、目の前で起きている物事に対して自分は何を感じどう取り組むかを考え、主体的に、自分だけの意味づけをして「今が超幸せ」と思いながら生きていける女性を増やしたい、そう考えています。

 

− 『Academia Ambista』を事業化してから4ヶ月が経過しますが、どのような授業を行い、どのような成果が出ているのでしょうか?

現在アカデミアには15人の女子中学生が参加していて、週1回2時間で実施しています。

基本的には上記の通り、私たちがPDCSサイクルと呼んでいる仕組みを回すためのワーク(目標設定、価値観磨き、プレゼンテーション、グループワーク、ノートテイク、キャリアデザイン等)を実践していますが、子どもたちの定期テスト期間にはフリーの勉強時間を確保したりします。
大枠の目標設定はだいたい2ヶ月に1回行い、週毎、日毎にブレイクダウンした行動計画はアプリを使用して、毎日私からフィードバックをしています。

具体的な講義例として、モチベーション・マネジメントでは社会心理学で心のメカニズムを学んだ上で、逆境に打ち勝つ力、諦めない力、折れない心をつくるべく、サッカーとモチベーションを関連付けて実践していきます。
価値観磨きでは、スポーツ偉人の名言に対するコラムを私が書いてそれに対して生徒が自分の考えをレポート書き、プレゼンをして、生徒同士で意見を交換したりします。

 

またアカデミアでは、教科教育はしておらず、反転授業をベースに学習を進めます

そもそも勉強ができない子のサイクルが何かを子どもたちに聞いていった結果、授業の復習をせずわからない箇所をほったらかしにしたままにし、テスト前にわからないことが多すぎて、どこがわからないかわからない状態になっていることが判明しました。
そこで、とにかくそのサイクルをやめよう、と反転授業にしています。

それぞれがアカデミアの日までに何かしら勉強をしてきて、わからない箇所をチェックして持ってくる。

講義前後の時間で、先輩やアカデミーの仲間に聞けるなら聞く、誰にも聞けない箇所は私が質問に答える、というスタイルで行い、各人がわからないところを毎週潰すようにしています。学校の授業で先生に言われたことは覚えていなくても、わからなくて友達に教えてもらったことは記憶に残ってることが多いんです。

成果としては、定期テストの平均点が50点代から70点超えになりました。

一人ひとりの勉強時間をアプリで管理していますが、平均勉強時間も伸びています。
サッカーでは、都大会でベスト16まで進んだり、東京トレセンに選ばれる選手が出たり、招待大会や年間リーグで優勝するなど、勉強面でもサッカー面でもどんどん成果が出てきています。

 

− さらに今年の夏には活動の拠点『アンビスタハウス』を作られていますが、『アンビスタハウス』を作ろうと思ったのはなぜでしょうか。

もともと、事務所兼アカデミアの教室を作りたいと思いクラウドファンディングに挑戦していたところ、Facebookでプロジェクトを見てくださった方のご縁で不動産会社の社長さんを紹介され、それをきっかけに場所が決まりました。

想定よりかなり広いスペースだったので、活用法を考え、生涯スポーツの場として3階をスポーツフロア、生涯学習の場として4階を学びフロアというコンセプトで設計しました。

 

− この1年で4度クラウドファンディングに挑戦され、すべて目標金額に到達されていますよね。なぜ、クラウドファウンディングを資金集めの方法として選ばれたのでしょうか。

アンビスタの法人規模で資金集めをする方法としてちょうど良いからです。行政からの助成金ですと、長年の実績が必要とされたり、書類作成や報告義務等マンパワーを必要とすることが多いので、良い意味での手軽さと、大きなお金を動かせる点で適切だと考えました。もう一点は、自分たちの法人を知ってもらう広報手段として、ブランディングやファンづくりの面があるからです。

自身が独立してから、何をしているんだろうと気にかけてくれる人が多くいる中で、目に見える形で応援の方法を提供することで応援してもらえたり、例えクラウドファウンディングが失敗したとしても、自分がどのようなことをやろうとしているかを知ってもらえるだけで、いざという時にファンの動きが変わってくると思います。

 

− この2年でやりたいことがすべて実現しているようにも見えますが、今後の展望など、石尾さんの思い描くミライを教えてください。

事業としては、多種目多世代の総合型地域スポーツクラブを整えることがゴールです。
ビジネスオーナーとしては、今の事業を良い意味で手放して次の事業を行えるように、仕組みを整える、人を育てることが現時点の大きな課題ですね。

今アンビスタで感じているワクワクを他の分野でも見つけたいです。また新しい価値を社会に届けていくために燃えれたらいいな、と思います。

あとは、地域を歩いていたら、「石尾コーチ!」って色々な人に言われるような、みんなのヒーローになりたいです(笑)。色々な人に知られて、地域の人と人との繋がりの中で生きている感覚を毎日味わいたい。
スポーツを使って地域の人と繋がりを感じられたらとても幸せだな、と思います。

 

− 最後に。自分のことを「好き」と言える自分になるために、石尾さん自身が意識されていることを教えてください。

自分に対して嘘をつかないことです。
できるのにできないと嘘をつきたくないので、常に120%で物事に取り組みますし、逆にできないのにできると嘘をつくと苦しくなってしまうので、やれないことは無理をしない。他の人にお願いする。

抱えきれない時は一度逃げることもあります。
眠かったら眠るし、寝ずにやりたかったら寝ない。嘘をつかずにより成長したい、大きくなりたいと思っている状態を保つことが、私にとって自分が好きと言える状態ですね。

 

2016年創立。少年少女サッカークラブ(FC LIGAR / FC HERMANA)の運営を中心に、小中学生の文武両道の支援(Academia Ambista)、未就学児と母親を対象としたヨガ教室(Raga)、小学生対象のチアダンス教室(W☆Orange)の運営を行っている。
ほかにも地域の子どもたちを対象とした『走力アッププログラム』、JFAの女子サッカー普及委託事業『なでしこひろば』、アスリードフードマイスターを招聘しての栄養講座など、地域住民へスポーツの機会を提供している。

 


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