GROW Life
  • HOME
  • 目の前に困っている人がいるのに、見て見ぬふりはできなかった。先生を辞め、NPO法人を立ち上げた男の挑戦。
INTERVIEW

目の前に困っている人がいるのに、見て見ぬふりはできなかった。先生を辞め、NPO法人を立ち上げた男の挑戦。

東京都荒川区に、「文武両道」にこだわるサッカークラブを運営するNPO法人があります。
その法人の名は、NPO法人スポーツカントリーアンビスタ(以下、アンビスタ)。

2016年に設立されたまだ2年目のNPO法人の代表を務めるのが、元々大学で教鞭をとっていた石尾潤さんです。
アンビスタでは、男女サッカーのほかに、ヨガ、チアダンスに加え、『Academia Ambista(アカデミア アンビスタ)』という子どもたちの「文武両道」を支援する、塾のようなコミュニティも運営しています。

なぜ先生を辞め、文武両道にこだわるサッカークラブを立ち上げたのか。石尾さんの想いに迫ります。

 

− そもそも先生になろうと思ったきっかけを教えていただけますか。

もともと、先生になりたいと強く思っていたわけではなかったんです。
高校までサッカー一筋でプロ選手を目指して、ワールドカップに出場することを夢にサッカーに打ち込んでいました。

中学では地元の小さなクラブチームに所属していたのですが、高校は都内の強豪校に一般受験で入学しました。
しかし、関東中のエリート選手ばかりが集まるサッカー部に入部してすぐに、努力では埋めきれない圧倒的な差がこの世の中にはあるということに気付いてしまったんです。

コーチにも「3年間頑張っても試合に出るのは無理だと思うよ」、そう言われてしまい、自分が本当に行きたい世界にはどう頑張っても届かないんだと、とてつもない葛藤の末、高校1年生とのときにプロの道を諦めました。
当時は本当に精神的にはキツかったですね。出口の見えないトンネルの中で光を探してもがき続けているような状況でした。

でも、今ここで自分ができることを考えたとき、自分を送り出してくれた中学時代のクラブチームの監督への感謝や、サッカーに育ててもらったという想いは消えませんでした。
自分が極められるところまで極め、あとはサッカーが好きな次世代の子どもたちに自分の力を還元して役に立ちたいという思いが徐々に膨らんできました。

地元のサッカーチームに戻って、「田舎の小さなチームでも、本気で目指せば届く世界もある」ということを伝えたかったです。

そのためにも、高校でサッカー日本一になり、日本一偏差値の高い大学に入って、全てを極めきった上で指導者として戻ってくるから、帰って来たら雇ってくださいと、高校1年生のときに中学時代にお世話になった地元チームの監督に伝えに行きました。

そんな想いで高校3年間を全力でやりきり、その後の大学4年間は指導者としての活動が生活の中心になりました。

そうして迎えた就活のタイミングで、これまでの自分を振り返ったとき、自分の居場所を与えてもらったり、評価をされたり、みんなに受け入れてもらったのは全て、サッカーありきだったことに初めて気が付きました。

それが自信でもあり誇りでもありましたが、逆にサッカーというスポーツを自分から剥がしたとき、自分が社会人としてどれだけ社会に価値を提供できるのか、パフォーマンスを発揮できるのか、全くわからないことに不安を覚えました。
だからこそ、一度サッカーというスポーツを離れて自分が1人のビジネスマンとしてどこまで勝負ができるか試してみたいと思い、就活を始めました。

ビジネス、経営の側面を持ちながら教壇に立てる仕事を探す中で出会ったのが学校法人三幸学園の教員という職業でした。3年間勤めましたが、とてもやり甲斐を感じていました。

 

− 実際、社会に出て教員として3年間働き、サッカーをご自身から剥がして挑戦してみた結果はどうでしたか?

自分なりに、自信を持つことができる働き方ができていたと思います。
実績や、周りからの期待感を振り返ってみると、サッカーを剥がしても、自身の努力でビジネスマンとして勝負していけると思うことができました。

 

− そこからNPOの立ち上げに至ったのは、どういった経緯だったんでしょうか。

社会人3年目でひょんな出会いがあり、地域の女子サッカーに関わることになったんです。
最初は知り合いからボランティアコーチを頼まれて関わり始めました。

コーチとして関わって初めて、女子サッカーの置かれる厳しい環境を知りました。

男子サッカー界では「当たり前」のことが、女子サッカー界では「当たり前」ではないことに、カルチャーショックを受けたんです。

例えば、男の子が思う存分サッカーをできる環境は当たり前に存在します。
放課後に校庭でサッカーボールを持っていれば、友達が寄って来て自然と友達ができます。
もっとサッカーを深めたいと思えば、自転車圏内にいくつかのチームがあって当然でした。そこにはちゃんと指導者がいて、サッカーをする友達、ライバル、先輩、後輩が当たり前にいて、中学・高校でも続けやすく、習いたければどこかしらで習える環境がありました。

それが、女の子となると、校庭でサッカーボールを持っていると浮いた存在になってしまう。
男子チームの中に、1人か2人しか女子がいない状況で居心地が悪いなと思いながらも、サッカーを習うには、そこに混ざるしかないんです。

都内のほとんどの中学校では女子サッカー部はなく、女子のクラブチームも、荒川区ではアンビスタが運営するFC HERMANA(エルマナ)の1チームしかありません。
つまり、荒川区で言えば、中学入学時にサッカーを辞めるかエルマナに入るかしか、選択肢がないんです。

東京都の中学生サッカーチームだけで言えば、男子チーム数は約200チームあるのに対して、女子チーム数は約30チームしかありません。女子チームは全体数が少ないので、男子サッカー界ではあり得ないことですが、学校の部活チームと地域のクラブチームが一緒の大会に出場します。

一緒にやる子がいないから、部活がないから、チームがないから…など、そんなネガティブな理由でサッカーから離れてく女の子が多いんです。本当はサッカーが好きなのに、仕方なく「友達がバスケ部入るから…」などと自分の心に嘘をついてサッカーから離れて行ってしまう。
自分が愛していたスポーツで、自分が人生の彩りや楽しさを与えてもらったと思えているのに、同じスポーツを愛しているのに、性別が違うだけでこんなにも社会から与えられるものが違うことに衝撃を受けました。

この状況をなんとかしたいと思うようになり、たった週1回だけボランティアコーチとして関わるのが、なんだか気持ち悪く感じるようになりました。
当たり前が当たり前じゃない人が目の前にいるのに、それを見て見ぬ振りする大人に自分がなっていくのが嫌で、今だったら自分が何か変えられるかもしれないと、独立してこの女子サッカーに関わっていくことを決意しました。

25歳の今なら、もし失敗したとしても迷惑をかけるパートナーや家族もいないので、なんとかなるだろうとも思えたからこそ、踏み出すことができました。
当時は、チームの売上も月8万程度しかなく、自分が関わったところで生活ができる訳でもないので、法人格を取得し、地域に根ざしたスポーツ事業を展開していく組織を作りたいと思い、独立の準備を進めました。

そんなわけで、たまたまのご縁が重なり、情熱が芽生え、一気に独立の道を歩み始めることになりました。

 

− NPO法人を立ち上げてから2年が経とうとしていますが、具体的に、どのような活動をしているのか教えてください。

『スポーツ×地域×学び』を一番大きなテーマにしています。

メインは子ども向けの育成スポーツで、少年少女のサッカークラブチーム、文武両道のアカデミー、ヨガ教室、かけっこ教室、チアダンスなどを運営しています。
サッカーにこだわらず、様々なスポーツ事業にこれから横展開していく予定です。

加えて、今後は世代を広げた縦展開にもチャレンジしようと考えています。
子どもたちだけでなく、年齢層を広げて、生涯スポーツや、スポーツをする子どもを持つ親への栄養指導等の関わり、更に高齢者の生きがいスポーツ、福祉健康スポーツへと事業を広げていきたいです。

 

− NPO法人を始めて、サッカーをする子どもたちは、活動地域でどのくらい増えたのでしょうか。

男子チームの会員数は約100名から160名ほどに、女子チームは13名から55名まで増えました。
以前は好きを押し殺していただけで、好きを貫けるならサッカーをやりたいと思っていた子どもたちへの環境を整えることができたと感じています。

女子チームの55名というのは、現在アンビスタが所属する東京都女子リーグ3部、5部リーグでは、なかなか見ない規模です。

 

− どのような経緯で参加する子どもたちが増えていったのでしょうか。

法人格を取得してサッカーを専門の仕事にしている指導者が所属する地域クラブが東京都全体を見ても少ないですし、ホームページをリニューアルして定期的に更新していたり、広報用のチラシを作ったり、他のチームとの差別化・ブランディングに成功したことが経緯としてあります。

さらに女子サッカーは競技人口が少ないので、マーケットを探すのではなく、マーケットを自ら作ることに挑戦しました。

JFA(公益財団法人日本サッカー協会)の公認委託団体として女子サッカー普及事業を荒川区で行えるようにし、門戸を広げてサッカーに少しでも興味のある女性を年齢問わずに集めて、無料イベントを開催しました。

女の子がサッカーの魅力に触れる、サッカー女子を知らないママたちに、サッカーを女の子が習うとこんなにも素敵になるんだ、ということを見てもらうようにしたんです。
そうすることで、子どもから「サッカーを習いたい」、親から「サッカーを習わせたい」という声が多く上がるようになりました。

-----------------

女子サッカーとのひょんな出会いから始まった石尾さんのNPO法人立ち上げ。
決して平坦ではないNPO法人の運営を、たった2年で軌道に乗せ、サッカーを愛する女の子たちが石尾さんのもとへ集まってきています。

そんな石尾さんが掲げる、アンビスタの「文武両道」とは?
次回の記事で、そのユニークな取り組みを紹介します。

 

 

2016年創立。少年少女サッカークラブ(FC LIGAR / FC HERMANA)の運営を中心に、小中学生の文武両道の支援(Academia Ambista)、未就学児と母親を対象としたヨガ教室(Raga)、小学生対象のチアダンス教室(W☆Orange)の運営を行っている。
ほかにも地域の子どもたちを対象とした『走力アッププログラム』、JFAの女子サッカー普及委託事業『なでしこひろば』、アスリードフードマイスターを招聘しての栄養講座など、地域住民へスポーツの機会を提供している。

 


あわせて読みたい
このカテゴリの記事をもっと読む